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2016年上期のイオン、イトーヨーカ堂、ユニーなどの大手GMS(総合スーパー)の業績は軒並み減収、赤字決算となり、すこぶる振るわない状況にある。
【ファーストリテイリングが運営する「GU」はロードサイド店舗でも繁盛】
各社は、不採算店の閉鎖、店舗改装、テナントミックスの変更などの施策を発表しているが、あくまでも対症療法の感はぬぐえない。抜本的な解決策を見つけられていないGMS各社の苦悩は当分続くことになるだろう。ただ、企業ごとに見た場合、各社の置かれた状況は一律ではない。実は、起死回生の一手となるカードを保有している企業がある。それがイトーヨーカ堂である。その理由は、他のGMSとの店舗配置を見れば一目瞭然だ(編集部注:以下、運営企業を「イトーヨーカ堂」、店舗を「イトーヨーカドー」とします)。
●立地戦略が異なるイトーヨーカ堂
現在の大手GMSの顔ぶれは、今世紀初頭の金融危機を乗り切った勝ち組と言えるが、その店舗立地を見てみると興味深いことが分かる。いち早くクルマ社会の到来に適用して郊外のロードサイドに大型店を展開したイオンおよびユニーと、東日本、特に首都圏に集中した店舗配置を構築したイトーヨーカ堂の立地戦略はまったく異なるのだ。
特にイトーヨーカ堂は唯一の東京出身企業という歴史的な背景から、首都圏の主要駅前を見事に押さえている。例えば、大井町や武蔵小杉など、なぜこんな駅前の一等地にあるのだろうと思っている人も多いはずだろう。
クルマ社会の到来以降も駅前立地の「イトーヨーカドー」がロードサイド立地のイオンやユニーとともに生き残ったのかと言えば、答えは単純で、関東、それも首都圏主要部はクルマ社会にならなかったからだ。
高度経済成長期以降、急速に進行した日本のモータリゼーションによって、公共交通の充実していない地方の買い物来店手段はクルマにシフトした。加えて、2000年代以降には買い物の主役である女性の免許保有率の上昇とパーソナルカーとしての軽自動車の普及が進んだことで、地方での買い物はクルマを使うことが一般的となった。この結果、ほとんどの地方都市の中心市街地は交通の結節点としての重要性を失い、急激に商業立地としての価値を失ってしまった。
しかし、公共交通が充実している首都圏や京阪神では、クルマは移動手段の選択肢の1つでしかない。あくまでもメインの移動手段は、公共交通であり、鉄道駅前の商業立地の価値は揺るがなかった。特に世界一とも言われる首都圏鉄道網は、新線、延伸、乗り入れによって利便性を向上させ続けている。首都圏における若者のクルマ離れも公共交通の必要性をいっそう際立たせている。
●レールサイド型の優位性
こうした経緯から、日本国内の商業立地はロードサイド立地とレールサイド立地に分化した。大まかに言えば、イオンとユニーはロードサイド型、イトーヨーカドーはレールサイド型である。そしてイトーヨーカドーがレールサイド型であることこそが他社とは異なる中長期的な優位性を秘めている。その理由は(1)人口動態(2)高齢化(3)競合環境の3点から説明できる。
まずは人口動態だ。ご存じの通り、首都圏の人口はまだ増加傾向を維持しており、将来的に減少に転じるものの、その減少率は他の地域に比べれば緩やかである。中でもその鉄道沿線に人口は集中する傾向にあり、これまで以上に首都圏駅前の商業立地価値は高まると見ていいであろう。
次に高齢化である。昨今の高齢者ドライバーによる事故の社会問題化がますます深刻になれば、今後クルマに乗れなくなる高齢者が増え、クルマで買物に行けない人も増えてくる。子どもによる買い物扶助の動きもあろうが、公共交通に依存する人の割合はさらに上昇する。現在でも、公共交通の利便性が極めて高い首都圏においては、代替手段の乏しい地方エリアより免許返納率が高いという統計的事実もある。その結果、公共交通に依存する高齢者が今以上に増加し、駅前の商業立地価値はさらに高まるだろう。
最後の競合環境が最も重要なポイントである。首都圏の優良な駅前立地は数が限られている上に、その周辺部にはほとんど空き地はない。この立地に新たな商業施設を作るとすれば、事実上再開発という手段しかないのである。ここまで見ればイトーヨーカドーの駅前既存店の価値がいかなるものかは、考えるまでもないだろう。この点でイトーヨーカ堂と比肩し得る企業は鉄道各社の商業施設くらいしかなく、流通企業では断トツの優位性を持っていることは間違いない。
●イトーヨーカ堂が不振の理由
ではなぜイトーヨーカ堂が今、ロードサイド型GMSと同様に業績不振に苦しんでいるのか。その理由は、首都圏駅前の好立地に甘え、店舗改装投資を先送りしてきたからだと考えられる。
イトーヨーカドーの首都圏駅前店はほとんどが昭和の開店以降、好立地に守られ大規模な改装をせずともある程度の集客を維持できた。しかし、店舗の老朽化が進み、駅から離れた周辺地域に少しずつ出店する競合、例えば、カジュアル衣料品チェーン「ユニクロ」のような専門店や、食品スーパーを中心とした中規模複合施設、大型ショッピングセンターなどに顧客を奪われつつある。首都圏でも駅から2キロメートル以上離れたエリアでは、クルマを使って買い物することが多いというデータがある。ロードサイドより緩やかではあるが、何十年も投資を狭小化してきた駅前の老朽店舗は、その魅力を失ってしまったのである。
こうした背景がイトーヨーカ堂の不振の大きな要因だとすれば、老朽店舗をスクラップし、新たな駅前立体型ショッピングセンターとして、再構築すればその魅力を取り戻すことが可能であろう。なぜ今までこうした再構築が行われなかったかといえば、彼らがGMS業態の抜本的改善の可能性を捨てきれなかったからである。
盤石の財務体質と収益力を兼ね備えたセブン&アイグループとしては、祖業であるGMSの構造改革をそう簡単にあきらめることはできなかった。しかし、改善の糸口を見つけられないまま今に至り、ステークホルダーからの批判を無視できなくなっている状況であろう。今度こそ彼らはGMSに固執しない総合的な商業施設として、GMS店舗の再構築に向けて、起死回生の一手を打つ時期が来たのである。それはセブン&アイグループの中期経営計画を見れば一目瞭然だ。
セブン&アイグループの10年中期経営計画のGMSに関する項には、そのことが明記されている。この計画がなりふり構わず実行されるのであれば、イトーヨーカ堂は首都圏で並ぶもののない複合商業施設運営会社として再構築されるだろう。
さらに蛇足を加えれば、イトーヨーカ堂には商業施設の核売場として食品部門を強化できる経営資源も保有している。全国有数の食品スーパー(SM)で、福島県を中心に宮城県、山形県、栃木県、茨城県の5県で店舗展開するヨークベニマルである。現場トレーナーやバイヤーの技術力育成など、同社の食品売場運営ノウハウは全国の同業が仰ぎ見る存在であり、イトーヨーカ堂が過去を否定することができれば、食品売場の吸引力が劇的に改善することは確実であろう。
●イトーヨーカ堂の反撃は始まっている
2016年11月の日本経済新聞に、セブン&アイグループが不動産再開発子会社を再編したという記事が載った。そんなに大きく取り上げられなかったこの記事こそ、これからのイトーヨーカ堂の反撃に向けたグループとしての取り組みが始まったことを示している。
小さく報道されたこの記事の本質は、セブン&アイグループが、ついに本格的な構造改革に踏み出した号砲であると思いたい。彼らがこの改革を完遂できたなら、イトーヨーカ堂は首都圏の駅前大型商業施設の運営会社として復活するであろう。しかし、こうした変革は大きな痛みを伴うものであり、短期的に経営陣が受ける関係者からの圧力は相当なものとなるだろう。今後の経営陣がこの圧力に耐え、持続できるかどうかによって、このシナリオの結末は変わってくるだろう。
中途半端な改装や潜在的好立地を手放す、ということに終始した場合、イトーヨーカ堂は滅亡した恐竜のごとき存在として、20年後の流通史に記されることになる。その次はもうないのである。
(中井彰人)
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